大学生向け就職塾(1993年11月、大橋直久)

厳しさを極めた1993年の就職戦線。不況の出口はいまだ見えず、1994年はもっと厳しくなるとの見方もあります。そんな中、大学生向けの就職対策の塾や講座には、早くも3年生が集まって本番さながらの模擬面接を繰り返しています。何もそこまでと思うか、希望を実現するには必要と思うか。講義内容をのぞいてみると、「自己発見」が共通したテーマになっていました。(取材・大橋直久)

バブル崩壊後の氷河期

英語学校が「模擬面接」

山梨県・西湖に近い研修所を訪ねると、東京都港区高輪の英語学校が2泊3日の合宿を開いていました。参加したのは大学3年生20人ほど。1993年11月21日は発声練習と人の目を見て話す訓練の後、3人の班で模擬面接を受けていました。

リクルートスーツ

全員が、本番で着るリクルートスーツ姿を着ています。面接官役の学生が、態度、話し方、話の内容など「所見欄」のある評価表を手元に、「どこまで出世したいですか」「服装の趣味を話してください」と質問を投げました。

入社するからには社長に

「はい、入社するからには代表取締役まで。地道に努力したいと思います」。答える側は背筋を伸ばして真剣そのものです。

動画で指導

横で、大手企業の人事部長の経歴を持つ会社員が見守り、入室から退室までをビデオカメラが追います。後で、動画ビデオを見せながら指導するのだといいます。

受講料は、宿泊費も含め年間38万円

東京都港区高輪の英語学校はこのセミナーを1988年から始めました。9月から翌年9月まで月数回、合宿して集中講義を行います。受講料は、宿泊費も含め年間38万円。1993年は定員50人のうち、30人以上がすでに埋まっています。

「マニュアル本には自己を理解して面接に臨め、とは書いてありますが、方法までは教えてくれない。費用も英会話と比べて、高いとは思いません。」と役員はいいます。

3分で自己PR

カリキュラムは心理学の手法を使った自己分析から始まります。講師側が学生に「6人ずつのグループを作りなさい」「3分で自己PRしなさい」などと指示し、その状況でどう考え、行動したか、自分の行動パターンを文章化させます。延べ30時間かけてこれを繰り返し、長所短所を理解するのだといいます。

受講の申し込みはすべて修了者からの紹介。「大学によっては書類段階ではねられるから」と断ることもあります。これまで男女半々でしたが、1993年は女子を減らす方針です。

「面接官役」を模擬体験

質問の意図見抜け

受講生で自動車販売会社から1994年春の採用内定を取った早大4年生(23)は「自分を問い直して会社を選択できた。面接も、質問の意図までわかるから余裕をもって臨めた」。1994年の就職活動を控えた早大3年のOさん(22)は「面接官役をしてみると、どう答えれば相手が満足するかがわかる」といいます。

就職予備校

東京都渋谷区代々木のコンサルタント会社「就職予備校」は、本業のかたわら就職の資料を集めた図書館を常設し、無料のセミナーも開いています。

自己理解セミナー

1993年は「就職して何をしたいか」を知る2日間の自己理解セミナーを計200回開きました。参加者は約120大学、4500人に上りました。「多くの学生が、自分が何をしたいのかわからずに企業を選んでいる」といいます。

東京都港区南青山の就活塾

東京都港区南青山の就活塾は、自己分析のためのワークシートを使った約20回の講義と、模擬面接、業界説明会などを行っています。

9割は第1志望に内定

期間は11月からの8カ月で、費用は9万8千円。塾の主宰者は「一生のうちにやりたいことを見つけ、それを実現するためにどの社が適しているのか探す」のだといいます。1年目は約60人が受講し、9割は第1志望に内定したといいます。壁には住友銀行、全日空、博報堂など採用内定先の企業名が書かれた札が下がっていました。

人事担当者の本音

「質問ひねればすぐボロ」

大手商社の広報部に、採用側としてどう見るかを聞きました。予備校で、自分の足りない所を改善しようと一生懸命な人を否定するつもりはありませんが、少なくとも我が社は人物本位で採用しています。「面接の達人」などマニュアル本を読んできた学生は同じような反応をしがちで、質問をひとひねりするとボロが出る。人事担当者なら、こんな本の内容も当然知っています。