面接のマニュアル本(1994年4月)

「自分の言葉」を大切に

『熱中し過ぎること』

大手生命保険の人事部長「学生に短所を聞くと、かなりの学生が判で押したように『熱中し過ぎること』と答える。うんざりしました。長所を裏返して、『過ぎる』という言葉で飾る学生が非常に多いんです」。

『御社の〇〇さんの人柄にひかれました』

繊維メーカーの採用担当者「志望動機の質問に、『御社の〇〇さんの人柄にひかれました』と自然に答えた男子学生。印象に残りましたね」。

どちらも1993年の面接で会った学生の印象です。

「就職マニュアル本」「面接マナー本」とは

生保人事部長は、この学生の採用にバツを出し、繊維の採用担当はマルをつけました。ですが、両氏が遭遇した受け答えは、ともに、ある「就職マニュアル本」に載っている“戦術”の1つでした。同じ本を読んでも結果は正反対--。「マニュアル本」や「面接マナー本」とは一体、何なのでしょうか。

就職をゲームとして描く

春を迎え、「就職コーナー」を設ける書店が多くなりました。あふれるマニュアル本に一通り目を通し2、3冊と買い求めていく学生も多い。「今の学生はコンピューターやゲームに親しんだ世代。就職をゲームとして描いた本ほど売れ行きがいい」(三省堂書店)

3種類の就職マニュアル本

ひとくちにマニュアル本と言っても、内容から大きく3つに分類できます。名づければ、〈1〉面接突破のテクニック本〈2〉企業別採用データ本〈3〉就職業界の内幕本--となるでしょうか。

面接突破のテクニック本が人気

この中で、最も種類が多く、「抜群に学生に人気がある」(ある大学生協)のが、面接突破のテクニック本です。主要企業別に採用日程や採用方式を掲載したデータ本や、企業や就職情報業界の本音を描いた内幕本は、この面接テクニック本の対抗商品として登場した経緯もあります。

ある本は、次のように学生を“指導”します。

  • 〈1〉どの会社へも「御社が第一志望」。理由は「会った人で決めた」と言え
  • 〈2〉自己紹介の言葉で「社交性」「協調性」「好奇心」「指導力」「企画力」を使ってはいけない
  • 〈3〉テニス、スキーのサークル幹事、広告研究会所属の肩書は隠せ
  • 〈4〉入社案内パンフレットに書いてある言葉は使うな
  • 〈5〉面接では自分の得になること以外言わなくていい
テクニックこそが面接での採否を分ける

このタイプの本が繰り返し述べるのは、「テクニックこそが面接での採否を分けるカギだ」という点です。

採否の判断が分かれることも

しかし、同じ本に載っていたテクニックを使ったのに、面接官である生保人事部長と繊維の担当者の採否の判断が分かれたように、無論、万能ではありません。

年々、神通力は落ちている

企業側も当然ながら、学生側のテクニック研究を進めており、「はじめはユニークさがあった。しかし年々、神通力は落ちてきている」(都市銀行人事部)のも確かです。

企業と学生の「イタチごっこ」

それでも、学生は面接法を研究し、企業も学生の手の内を読もうとします。まさに「イタチごっこ」(都市銀行人事部)。あるマニュアル本は、続々と姉妹本を発行し、基本編から志望決定編、マナー編、男女別の問題集にビデオ・ソフトまでそろえています。何人の学生がこれを読みこなし、「極意」を習得できるのでしょうか。

『自分の言葉』で語る

繊維の採用担当はこう言います。「あの学生の話の出し方が、マニュアル本に載っていたのは知っていました。でも彼の表現力は実に的確で、『自分の言葉』で語り、表情も生き生きとしていました。評価したのはそこです。テクニックだけではありませんよ」--。